›2004年 4月 27日

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球体関節人形は胎児の夢を見るか?

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 近頃、お気に入りで聴いているのが「イノセンス」というアニメ映画のサントラである。
 以前、木場で開催されていた球体関節人形展の話題の時に、ちょこっと触れたのだが、その時には正直、まったく興味を持っておらず、どちらかというと「どうせアニメでしょ?」的な態度だったのを良く覚えている(笑)。
 それからしばらく経ち、職場でアニメ好きの同僚が「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」のサントラを流していたのを聴き、意外とカッコイーのに耳奪われ、mp3でも転がってないかと探してみたところ、なんと自宅で同居人が所有しているのを発見する(笑)。
 このサントラの作曲者は菅野よう子っていう人で、まあ、ヘヴィロック調からテクノ調、「これはU2?」と錯覚してしまう曲まで幅広く収録されていて、総括すると、オリジナリティは感じないけど、むちゃくちゃ器用な人なんだろうなぁとの印象を持った次第で。
 それから、まあ、紆余曲折を経て、とうとう「イノセンス」を見るに至り、さらに劇場版攻殻機動隊 Ghost in the Shellのサントラや、イノセンスのサントラなんかも集めてしまったりして、すっかり攻殻機動隊三昧なわけであります。
 まず劇場版の音楽を担当している川井憲次氏だが、むちゃむちゃオリジナルな人で、中心となるのは日本の大和言葉を歌詞として織り込んだ壮大な邦楽チックな楽曲で、有名なところでは姫神などにも通じるところがあるだろう。
  元々、鼓童や伝統音楽、そして姫神のシンセ音に興味があったので、私が川井憲次氏の音に夢中になるのも自然の流れだったのかもしれない。雰囲気が暗いところも私好みだし(笑)。
 で、肝心の映画そのものについては、まず絵が暗くて、リアリスティックなので、それほど違和感なく見ることができた。そればかりか択捉島などのシーンで描かれた壮大なCGには純粋に驚かされたものだ。
 そしてアニメを見る上で一番のネックになる「声」も、低音が中心で構成されていたので耳障りになることもなく落ち着いてみることができた。残念ながらあれほど愛している「おじゃる丸」であっても、10分以上、アカネたちの甲高い声を聞いているとイライラしてしまうのである。
 そして、ストーリーだが、残念ながら前作「GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊」を見ていないため登場人物の背景などは理解できなかったのだが、まあ、特に問題もなく全体像を把握することはできたと思っている。
 なお、私のようにストーリーをまったく把握していない人のために以下のようなサイトもある。
 GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊@野良犬の塒
 Production I.G.:GHOST IN THE SHELL
 要するに前作も含めて「攻殻機動隊」という作品で問題となっているのは、「人間ってなんだろう?」「私ってなんだろう?」という古典的な哲学的問題なのだろう。
 人間の似姿としての球体関節人形、そしてSF作品で描かれるアンドロイド、サイボーグたち。それと人間との相違点を論じる、壮大な思考実験とも言い得るだろう。

 まず、似たようなテーマを持ったSF作品といえば誰しもがフィリップ・K・ディックの「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」を思い出すであろう。かの映画「ブレードランナー」の原作になった小説である。

 体力、知力、あらゆる面で人間を凌駕していたネクサス6型と呼ばれる人型ロボット通称「レプリカント」は、地球外での強制労働や惑星探査等で奴隷同然のように扱われる中で、次第に感情を持ちはじめ、人間に反乱を起こすようになった。
 そのレプリカントのうち、地球へ戻ってきた物を見つけだし処分するのが、ブレードランナーと呼ばれる特務機関である。人間とレプリカントを見分ける唯一の手段は、感情移入の能力が欠けているかどうかをテストするのみ。
 自分がレプリカントだとは気がついていないレプリカント。そして自分がレプリカントかもしれないと苦悩する人間…。

 「攻殻機動隊」では、同じような問いが以下の形で展開されている。
 自己意識である「ゴースト」があるかどうかで人権の有無が決定されるような近未来社会。人工知能を搭載した人型ロボットであるアンドロイドや、人体を改造/機械化したサイボーグたち、そして生身の人間であっても記憶や思考などを外部データ化できるようになった時代において、機械と人間との差異とはなんなのだろうか? 果たして「ゴースト」など存在するのだろうか?

 あまりに突飛な問題設定ゆえに、とまどわれる方もいるだろうと思う。
 実は哲学業界では、この手の「思考実験」というものは、「ブリュダンのロバ」などを見ればわかるように、かなり古くから行われていた。確かに問題設定が突飛すぎるため、なんの役にも立たない無意味な問いであるとか、現実を反映していないなどと非難されることも多いのだが、思考実験というものは、その問題を純粋な形で抽出し、問いを深化させるのには適しているのである。
 
 似たような自己意識と身体との問題を問いかけるものとして、デレク・パーフィット「理由と人格」(勁草書房)に書かれた「転送実験」の思考実験がある。正確には自己の同一性を問題にしたものであるが、まあ、「自己」というものを問題にしているということでお許し願いたい。
 火星と地球を一瞬で移動できる転送装置があったとする。そのシステムは、転送者の物質的構成などを瞬時にスキャンし、火星側の転送機へデータを送信、そのデータを元にして火星側で物質が再構成されることにより、人体の移動を行う性質のものである。
  まず第一のパターンは、地球の私を破壊し、火星に転送されたものを私として扱う場合である。これは私の死ではないのか、という問いが焦点になるだろう。そして第2のパターンが、地球に残された私と、火星に転送された私が存在しつづける場合である。この場合はどちらが私なのか、ということが問題になってくる。そして第3のパターンは、地球、火星ともに存在し続けているのだが、機械のミスで、地球にいる私の肉体に損傷を与えてしまい、数日で地球の私が死んでしまう場合である。この場合、数日共存していた私がひとつに集約されえるのか、という問題をはらんでいる。

 正直、わずか数語に要約するのも困難なので、くわしくはreplay氏による「芸術における『物質と精神』」、あるいは森岡正博氏による「デレク・パーフィットと死の予感」などを参照いただければ正確な理解を深めるための助けになるであろう。
 
 ついでに良い機会なので、その他、哲学で有名なところの思考実験をいくつか紹介しておこう。
 こういうところから哲学に興味を持ち、さらに深いところへと続く扉を開けることもありうるからである。
 これら公案をつねに抱きつづけ、なにが引っかかっているのだろうかと自問自答しつづけていただきたい。
 
 ちなみに上記のパーフィットの議論は、私が千葉大学で行われていた永井均先生の講義に出ていた時にちょうど論じられていたもので、つまり永井均先生がずっと取り組んできた<私>の問題とも深く関わっているようだ。最近の著作は、まったく読んでいないんで、正確なところは知りませんけど(笑)。
 
 また、心身問題として別の問題を問いかけるものではあるが、パーフィットの思考実験以上に有名なのが「桶の中の脳」の仮説であろう。
 あなたには、ある独創的な技術科学者の管理の下、研究室で液体を満たされた桶の中に浮かび、接続されたコンピュータから現在のあなたの体験を食まされている一個の頭脳こそがあなたである、という可能性を否定することはできない。なぜなら、もしあなたがそのような頭脳であり、またその実験が順調に行われているのだとすれば、あなたが自分の体験からその事実を知ることは不可能だからだ。というのも仮説上、あなたのその体験は、桶の中の脳でない場合と同じものなのだ。自分の体験しか訴える材料がなく、その体験がいずれの状況でも同じなのだから、あなたにはどちらが現実であるかを解明するものが何もないのである

 
 さらにパトナムの双子地球サールの中国語の部屋といった比較的最近の哲学者たちの思考実験も興味深いものである。あるいはデイヴィッドソンのガヴァガイなぞも同様に有名な思考実験のひとつであろう。
 なお、Googleのキャッシュが文字化けしている場合は、テキストエンコーディングを「UTF-8」に指定して見て下さい。
 
 最後に私の好きな思考実験にリンクを貼っておこう。
 観察されるまで生も死も混在している状態にあるなんて、ロマンティックかもしれないが、あくまでもミクロの世界の話だということは留意しておくべし、である。
 
 なお、もちろん思考実験で何が問題にされているのか皆目、理解できない人もいることだろう。
 それは能力の差ではなく、あくまでも性質/センスの問題であり、理解できない人は永遠に理解できず、理解できる人は何故に理解できないのかが理解できない、そういった類のものであろう。
 気になさらぬように。

Comments

同居人から指摘があったので補足。
 この記事はあくまでも思考実験を紹介するもので、それ以上の思考を行おうとは毛頭考えていないものである。
 だから思考が甘いとか云々は問わないように。
 私をめぐる考察とかは、また別のお話。
 そのうち書くとは思うので、それまでは各自で今回の思考実験をいじくりまわして思考を深化させてみてください。

Posted by: 管理人 [URL] at 2004年04月28日 02:57
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